ムツボシくんの仙台全盲物語
むつぼしくんが飛行機に乗っている画像
2020年1月9日

杖が昇天、白鳥座の隣りで白杖坐となる!?

 ハーイ!ムツボシくんです。みなさん、ちょっと聞いてください。ムツボシくんがお出かけの折は白杖(はくじょう)を利用していることはご存じですよね。なんと、先日、ムツボシくん、白杖、2度も折られちゃいました。1日に2回ですよ、2回…!こんなこと、初めてです。今回の物語はY駅から始まるのであります。

 その日は、JRにてR市に出かける用事があり、乗車するY駅前を改札に向かって白杖で歩いておりました。すると、例のごとくというか、もう、こちら京都ではなれっこというくらい、人が突然目の前を横切ったり、すぐ側を抜いていったり、そのうち、何回かに1回は杖を蹴とばされるものなのです。

 アアーッ!

 そう、だれかが杖を足元に挟んだまま、歩き去ろうとしているではありませんか。杖を持って行かれそうです。そこに、別の人がこの杖を踏んだのでしょうか。ムツボシくんの杖を持つ手にかなりの重さがかかったかと思う間もなく「バキッ!」。急に手元が軽くなりました。

 そう、音とともに、杖、折れちゃったのです。実は、今回持っていた杖は、すでに、折れそうな状態にはなってはいたのです。下の方がやや曲がりぎみ、まもなく折れるかも…とは感じておりました。そうです。京都を歩くようになり、これまで何度も踏まれたり、車に蹴とばされたり、この杖には痛い思いを散々させてきたのであります。

 ああ、ついにこの日、この場所にて白杖は折れたのでありました。「ごめんね、白杖くん!痛かったね…」

 折った張本人は若者でした。「大丈夫ですか」とは尋ねられたものの、こちらも何もいえません。「大丈夫じゃない」「弁償しろ」といっても、せいないことです。

 ムツボシくんの鞄には、いざというときのための、室内用の極細杖は1本入ってはいますが、まあ、点字ブロックもある駅ですので、このままR駅に向かうこととしました。

 「いいですよ」と、心にもない優しい言葉を投げ捨て、ムツボシくんは、折れた杖の先はそのままに、少し浮かせながら、そっと地面をこするかこすらないかの触れ方でその場を後にしたのでありました。

 JRに乗りながら、この先、この折れた杖でこするような使い方でも大丈夫か?それとも、鞄からあのヒョロヒョロの極細杖を出すべきか、善後策を考えていました。そして、思いついたのが、下車するR駅の改札で一か八かのヘルプ要請をすることでした。ヘルプとは次のようなことです

 つまり、ここまでの事情をすべて話して、「もしも、もしもですが、あればでいいのですが、そう、置いておられたらでいいのです…」。まずは下から低く低く話掛けます。「もし、あったらでいいのですが。割り箸と、ガムテープでこの杖を一時的に直したいのです。手伝ってもらえないでしょうか」といってみました。もちろん、折れた杖を見せながらです。

 すると、このR駅員のお兄ちゃん、「はい、すぐに探します」とキビキビとしたお声が返ってきたではありませんか。実は、それほど期待はしておりませんでした。それが、それがです。1分も待たないうちに割り箸と布テープを持ってきてくれたのでした。助かった!これで、しばらくは歩けます。折れた部分は、割り箸を添木にしてぐるぐる巻きにしてもらいました。しっかり固定できたみたいです。軽く地面を突いても大丈夫です。駅で杖を直してもらったのは初めて…本当に感動しちゃいました。(お昼でしたが、あの駅員さん、せっかく買い込んでいたカップラーメン、食べる割り箸、なくなっちゃったのでは…。もしかして今頃は鉛筆2本ですすっていなけりゃいいのですが)

 そして、時は流れて夕方のことです。用件もすませて自宅近くまで戻ってきました。この交差点を渡ればムツボシくんのマンションも目と鼻の先。音響信号が渡れる音になりました。もうここまでくれば安心感も出てきます。

 アッッッ!

 私、横断歩道の真ん中で、「あっ」といって立ち止まっちゃったのであります。突いていた杖の感触がなくなったのです。自転車のブレーキがキュキュキュキュ!

 そうです。自転車がムツボシくんのあの瀕死の重傷、包帯ぐるぐるの城杖くんをまたしても挟んで行きかけたのです。車輪に杖先を巻き込んだものの、そのまま走り去ることもできずブレーキをかけたのでしょう。あえなく、白杖くん、この日、2回目の骨折とあいなったのでありました。

 ムツボシくんは、杖を車輪から引っこ抜こうとして必死なのに、自転車の持ち主の声が聞こえてきません。「こいつ、だまったまま、立ち去ろうとしているな」と思ったムツボシくん、まわりを歩いている人を意識しながら、あえて大きな声で

 「あーあ、どうしましょ。折れちゃいましたよ」といってやりました。ほんとは、割り箸が折れたのではありますが、そんなこと関係ありませんよね。

 まだ、声がしてきません。

 ようやく車輪から抜けたブラブラの城杖を、見せるつもりで掲げ持ち「どうしたらいいんですか?」といい放ちました

 ここで、ようやくですよ。「大丈夫か」、なんと、おじいちゃんの年老いた声がしてきました。この声、聴いて、もう叱る気もなえてしまいました。全盲者にとって杖が折れたら「この先どうやって歩くのだろう」なんてことを考えられる想像力もないようです。

 「まあ、なんとかします。どうしようもないじゃないですか」とこの日2回目の捨て台詞。音響信号も鳴り終わった横断歩道の残りを危なっかしく渡り、折れた杖の先端をブラブラさせながら戻ったのであります。よく知った道で、残り家までは100mくらいだったのが救いでした。

写真1
折れてしまっても杖は杖、家まではもう少し



 1日に2本の杖が折れるよりは、1本が2回、折れる方がましだったね、とでも思わないといけないのでしょうか。

 警察を呼んで、弁償することに持ち込むこともできたでしょうが、見えないムツボシくんから逃げるのも簡単ですよね。

 証拠のビデオがすばやく撮れるといいのでしょうが。そのすばやくビデオを撮る練習もこれからの視覚障害教育ではこのご時世しなきゃいけないのでしょうか。

 それともです。人込みでは杖を突いてはいけませんという声もあると聞きます。それはおかしいとムツボシくんは思います。今回も前に杖を出してしっかりついていたのではありません。本当は1m暗い先を杖で探索したいのですが、人がいるので自重しての使い方をしていました。それでも、こんなふうになるのです。

 杖を折った今回の二人も、悪気はもちろんないのです。でも責任はあるように思いますが、どのように責任をとってもらえばよいのかわかりません。なんせ、「杖が使物にならなくなっちゃったら、この人はどうやって歩くのだろうか」ってことすらも想像できない人たちなんですよ。ムツボシくんはどうしたらよかったのでしょうか。

 この日、3年8ヶ月の短い壽命を終えたマイケーン・白杖くん!どうか昇天したらお星様となってムツボシくんの安全な歩行をこれからは見守ってくださいね。白鳥座の隣り、白杖座となって…!